このような悩みに答えます。
僕は現役の介護福祉士として働いて7年目になります。Twitterかまたり(@kamatarikun)
介護職にとって『移乗』というのは大事な技術の一つですよね。
教科書や参考書を見て学んだり、先輩のやり方を見て真似てやってみようと思っても
『あれ?このやり方で合っているはずなのにな…』
『先輩はめちゃくちゃ簡単そうにやっていたのに…』
と、思うこと結構ありますよね。
本記事では移乗について詳しく説明していきます。
正しいやり方やうまく行うためのコツも踏まえて説明していきますので、ぜひ参考にしてください。
また、介護経験のある方もこれからの介護職員の育成のために改めて見直すきっかけにしてもらえれば嬉しいです。
では早速本題に移りますね。
『介護の基礎』移乗(トランス)の正しいやり方とは
移乗をする前の基本のポイントは以下の通りです。
移乗(トランス)の基本ポイント
- 移乗する前に利用者の意思・体調確認をする
- 利用者の能力をある程度把握しておく
- 移乗する先の車椅子やベッドの位置の確認
ですね。順に説明していきますね。
移乗(トランス)する前に利用者の意思・体調確認をする
まず移乗する前に利用者への声かけや体調確認を行います。
なぜこれをやらなくてはいけないかというと、脳卒中など目には見えない異変が起きているかもしれないからです。
早めの気づきが、利用者の命を救う場合もあります。
ですが慣れるとついついやってしまいがちなのが、寝ている利用者に対して
と、いって布団を剥いで問答無用で起こしてしまうパターンですね。(僕もやってしまっていました)
そうするといち早く利用者の異変に気づけていたかもしれないのに、見落としてしまう可能性が高くなってしまいます。
意思を確認することで、何よりいきなり起こされる利用者が怖くありません。
介護職を長くやっていると慣れてきて、疎かにしてしまう場合が多いのでしっかりと気をつけていきましょう。
声かけのコツなどはこの記事に記載しているのでよろしかったらお読みください↓
利用者の能力をある程度把握しておく
能力、というのは残存機能のことです。
この残存機能を把握しておくと、
- どこまで自分でできるのか
- 介助すべき動作は何か
- 本当に自分で出来ないのか
というのがわかります。
自分が迷わずに適切に介助を行えますし、利用者がどこまで自分でやりたいかがわかります。
僕たちもできることは自分でやりたいですよね。
ですが利用者の中には”本当は自分で出来るのに”介助者に依存してしまう場合があります。
元々の性格や、体を動かすのが面倒になってしまっていて介助者に頼ってしまうケースです。
もちろん本人が行える部分を介助してしまうと、その部分を使わなくなってしまい本人の持っている能力を落としてしまいます。
能力を把握していれば利用者が、本当に出来る事か、出来ない事かの取捨選択をすることが出来ます。
つまり能力の把握とは利用者の残存機能を維持するために必要な情報を得ることに繋がります。
移乗(トランス)する先の車椅子やベッドの位置の確認
僕も介護に携わり始めた時に結構やってしまっていたんですが
車椅子からベッドに移乗しようとした際に、感覚が掴めずにどうしても遠くなってしまい
足腰が弱って歩けない利用者を力尽くで支えて移乗してしまった時が何回もありました。
当時の僕は『怪我だけはさせちゃいけない』と、未熟なりに一生懸命移乗したつもりでしたが
そうすると利用者から出てくる言葉は
転ぶかと思った
と言うマイナスな言葉ばかりでした。
当然利用者に不安を抱かせてしまう介助は、適切な介助とは到底言えません。
そのため、移乗先の位置を確かめるのには、安心させるためにも非常に大切な確認です。
移乗(トランス)のやり方
次に移乗のやり方について手順を説明していきます。
- 車椅子→ベッド
- ベッド→車椅子
の順で説明していきますね。
これは全介助の利用者への移乗の仕方になります。
やり方はもう知っているよ、という方は次の『移乗に関する知識』へ読み飛ばしてOKです。
車椅子→ベッド(全介助)への移乗(トランス)
まず最初に車椅子→ベッドからですね。
車いすは、ベッドの側面に対して10度〜30度(介助される方の状態に応じて角度を変える)の角度で設置します。
必ずブレーキをかけてフットサポートを上げておくことも忘れないようにしましょう。
片麻痺がある利用者の場合は、車いすを健側(麻痺がない側)に設置します。
手順は以下の通りになります。
- 利用者の両足が床につくように臀部をずらし、介助者が支えて浅めに座ってもらいます
- 利用者の両腕を巻き込まないように介助者の肩へまわします
- 介助者は腰を低くし、十分に力が入る体制を整えてから両腕を利用者の背中にまわします
- 自分が立ち上がる時に一緒に立ち上がってもらう感覚で、前傾姿勢で立ち上がってもらいます
- 介助者は車いすに近い方の足を軸足にして、車いすに向き合うように方向転換します
- 最後に一言『座りますよ』と声かけしながら利用者に座ってもらいます
ベッドから車いすへの移乗のポイントとしては車いすの座面がベッドより少し低くなるように調節したほうがなおいいですね。
(車いすからベッドへ移乗する場合は逆になります)
ベッド→車椅子(全介助)への移乗(トランス)
次にベッド→車椅子ですね。移乗の基本は一緒になります。
ベッドでは起き上がり介助から行わなくてはいけないのでその説明は以下の通りになります。
- まず声かけを行い、起きる方向へ利用者の顔を向けます
- 起き上がる側へ介助される利用者の身体を横向き(側臥位)にします。(肩と腰を持つと簡単)
- 利用者の両足(膝から足先まで)をベッドから下ろします(あんまり下ろしすぎると利用者の腰を痛めてしまうので注意)
- 利用者の上半身を起こし、臀部を軸にして頭が孤を描くように起こします
- 起こしたら座位姿勢を崩さないよう倒れないように支えます
起き上がり介助のポイントとしては、利用者に近づきすぎると介助者の動きも制限されるため程々のスペースを空けることを心がけます。
この起き上がり介助のあとは車椅子→ベッドの④〜⑥の通りでOKです。
移乗の基本はこれでOKです。
移乗(トランス)に関する知識
最後に知っておくと移乗介助の参考になると思うので紹介しますね。
ボディメカニクス
無理なく安全に移乗・移動介助を行うために、『ボディメカニクス』という技術があります。
介護分野のボディメカニクスとは、身体力学を活用し、利用者も介助者も楽な介護をする技術ですね。
ボディメカニクスは利用者に安心感を与えるだけでなく、うまく活用することにより介助者の腰痛予防や身体負担の軽減にもなります。
ボディメカニクスには8原則と呼ばれるものがあります。
✔️ボディメカニクスの8原則
- 介助者の※支持基底面を広くする
- 介助される方と介助者との重心を近づける
- 大きな筋群を使う
- 介助される方の身体を小さく球体にまるめる
- 介助者の重心を低く落とし、重心移動で動かす
- 介助者の身体をねじらない
- 押さずに引く
- てこの原理を利用する
※支持基底面とは、足裏など床と接しているところで囲まれた足下の面積のことです。介助者が足幅を前後・左右に広めに開く(支持基底面を広くとる)ことで、介助者の姿勢の安定性を高めます。
大きな筋群を使う、ということは腕や手先だけでなく腹筋や背筋などを意識しながら介助するということになります。
更に、てこの原理を意識するとなお楽になります。
起き上がり動作でも利用しましたが、てこの原理とは、作用点(力が働くところ)、支点(支えるところ)、力点(力を加えるところ)の3点の関係を利用し、小さい力で重いものを動かすことができる仕組みです。
介助者自身の肘や膝などを支点として、介助することを意識するとかなり介助が楽になります。
かなり使える技術になるので気になる方がいれば、力学の基礎もわかりやすく説明しているこちらの本がオススメですね。
看護・介護を助ける姿勢と動作 イラストで学ぶボディメカニクス/小川鑛一【1000円以上送料無料】 価格:2,750円 |
スライディングボード
全介助の利用者の方を移乗介助する場合、ボディメカニクスを利用してもかなり力がいる場合があります。
力の弱い女性スタッフは転倒や転落をさせてしまい、移乗介助自体が怖く感じてしまうことも多いと思います。
そこでオススメなのが『スライディングボード』です。
↓このような形で使います。
全介助者の移乗介助にてスライディングボードを使用する場合は、車椅子とベッドが水平になるように高さを調整します。
技術や力にまだ不安がある…という方には便利な介助用具ですね。
使用手順を説明しておきます。
- 車椅子の位置はベッドの真横に固定する
- 車椅子のアームレストを上げる
- ベッドと車椅子のお尻の高さを水平に設定する
- スライディングボードをベッドと車椅子の間にセッディング
- 介助者は利用者の両脇またはお尻を支え、横にスライドさせるように移乗する
といった手順ですね。
しかしこういった介助道具を使ってこないで、長年介護に携わってきた方だと少々面倒くさく感じてしまうかもしれませんね。
慣れないうちは、セッティングに時間がかかったりするのでそこも注意ですね。
ですが少ない力で、移乗ができるのでかなり便利ではあります。
僕も前の施設で借りて使ったことがありますが
『なるほど、確かに楽だ』と感じましたね。
少々値段が張るのがネックですが、検討の価値はありますね。
まとめ
移乗一つとってもかなり注意する部分が多いですよね。
もちろん施設によってのやり方や個人のやりやすいやり方があると思うので、そちらでやっていいと思います。
しかし、職員同士であまりにも介助の仕方が違うと、不安を覚えてしまう利用者もいるので注意してください。
また新人の職員にとっても人によって介助も仕方が違うと結局どのやり方がいいの?となってしまうので基礎は職員同士で共有しておくといいですね。
この記事が『移乗(トランス)』の基礎として読んでくれた方の参考に慣れば幸いです。
ここまで読んでくださりありがとうございました!